2021年6月13日(日)
文:青栁隆之介(福岡県文化振興課学芸員)
第5回のコレクティヴちっごでは、メンバー各々が現時点で思い描く活動アイディアをドリーム・プランとして発表しました。ここまでのノンクロンを通じて参加者たちはどのような展開をイメージしているのでしょうか。
本を媒体にした相互交流
まずは、本に関心を持つ参加者のアイディアから紹介します。九州芸文館が設置されている筑後広域公園には日中散歩などで往来する人が多いことから、野外で行う「本の譲渡会」が提案されました。ほかの人に読んでもらいたい本や、自分はもう読まないが誰かにとって必要かもしれない本を住民が持ち寄ることで、相互交流を図るという企画です。さらに、近隣の飲食店などにも協力を呼びかけ、「本 × 料理」といったコラボレーションも行いたいといいます。本を別の要素と組み合わせることで間口を広げ、人々の接点を生み出そうという仕掛けです。このアイディアの肝は、本を読んだり、受け渡したりすることが最大の目的ではなく、その先にあるコミュニケーションを見据えている点です。本を媒体にした相互交流というアプローチは、オンライン・トーク第4回に登壇したカタクルジャ(Katakerja)の活動にも通じるものがありますね。この発表を聞いたほかの参加者からは、地域の図書館にも声をかけ、本の専門家たちとも協力したほうがいいのではという意見も出ました。さらに、譲渡会後に本の感想をフィードバックしてもらい、芸文館内に展示するというアウトプットに関するアイディアもその場で生まれています。
芸文館の屋内外をつなぐ
次に紹介するのも、公園での人の往来に可能性を見出したアイディアです。発案者の方は、企画を練り上げるまでのプロセスも説明しながら発表を行いました。まずは「芸文館」と「散歩」というキーワードを設定して、マインドマップという形で思考を重ねることから始めたそうです。そして、二つのキーワードから連想を繰り返していくと、散歩の途中で芸文館に立ち寄る人は多くはないものの、ガラス越しに館内を覗く人がいるなど、住民は決して無関心ではないという屋内外の関係性が見えてきたといいます。そこで思いついた企画が、「芸文館」というお題のもと、館に抱いているイメージやそこでの思い出を人々がシェアすることで、芸文館の内と外がつながっていくというものでした。ただシェアするだけではなく、その過程に宝探しの要素を取り入れたり、写真など言語以外の表現も交えたりといった、かなり具体的なプランまで用意してくださり、老若男女問わず誰でも楽しめそうな企画内容に、発表を聞くほかの参加者の表情にも自然に笑みが浮かんでいました。
地域の特産品を軸にした企画群
筑後地域に長年暮らす参加者は、地域の特産品などを活かした複数のアイディアを発表しました。
まずは、「工芸体験マルシェ」と名づけられた催しです。職人を招き、小学生から社会人まで幅広い世代を対象にした体験教室を実施するほか、工芸品の展示即売会も併催します。単純にイベントを開催するだけではなく、職人との交流を通して、工芸の世界を体験してもらうといった趣旨の企画です。
次のアイディアは、「個人作家マルシェ」です。先のマルシェと異なるのは、個人作家育成のために出店機会を設けるという点で、教育の側面が強いのが特徴です。提案した方はかつて、起業セミナーの講師を担当していたこともあるそうで、その経験が生かした企画となっています。
さらに、「散歩トーク」というプランもありました。内容は芸文館から徒歩20分の距離を、複数人で会話をしながら歩くというもので、地方は車社会であるからこそ、あらためて歩いてみたいと考え企画したそうです。芸文館は駅からも近いため、筑後市外からの参加も積極的に募りたいといいます。
ほかにも、八女茶のインストラクターによる試飲会をしたり、地域の農業女性にインタビューをして動画を公開したり、対話の機会のためにバーベキューをしたり、体験農園といったアイディアも発表してくださいました。過去の話し合いでは、筑後地域の魅力として農業とものづくり文化などが挙がっていましたが、今回のプランではそれらを全面に押し出した形です。地元に対する愛着を、思いつくままにアイディアにつなげているのが印象的なプレゼンテーションでした。
人が集まることの意義を問う
筑後のものづくりや食文化を支えている作家や職人、農家たちへの取材によって、地域資源の調査と発信を行うというアイディアも提案されました。彼らの作品や言葉を拾い上げていくことはもちろんのこと、地域の担い手たちを個々に独立した存在としてではなく、全体で一つのまとまりをもった文化として捉えることで、筑後の地域資源を体系的に可視化する企画となっています。
ほかにも、普段は接点があまりないような異業種の人々が出会う場として、「アート・ピクニック」というアイディアがありました。これは複数回にわたる連続企画で、導入はフリー・マーケットのようなゆるやかな形で始まり、最終的には地元のアーティストも加わり、人々が協働しながらコレクティヴの本質に触れていくという内容です。
いずれのアイディアにおいても、人と人とを結び付けるだけにとどまらず、それらを総体として扱おうとする方向性が見受けられ、人が集まるとは何かという根源的な問いかけを行う企画のようにも感じられます。
筑後地域外へのアウトリーチと対話による学びの創出
アウトプットの場に関する提案も行われました。ある参加者は、筑後の魅力を発信していくにあたり、九州芸文館だけではなく都心の会場でも展開することで、外部からも筑後に足を運ぶきっかけにしてもらいたいといいます。
また、その方は本企画に参加したことで、主催者がアートの定義づけを行うのではなく、アートとは何かを参加者同士で考える場が必要だと感じるに至ったそうで、アート・フォーラムのようなイベントも開催できればと話してくれました。筑後地域の中だけで完結させるのではなく、地域内外の人々が交流する機会を設けることは、より多方向的な活動のためにも大変重要なことです。
SNSを活用した情報発信
外部への発信については、SNS展開の必要性を訴える参加者もいました。早い段階からSNSで発信を行うことで協力者を募り、現メンバーだけではなく、より多くの人が関わる場所にしていこうというアイディアです。そこには、コレクティヴちっごが主催者の手を離れても、地元の人々によって活動が継続されていくという長期的な視点が含まれており、まずはSNSの活用しながら認知度を高めていくのが狙いです。第4回のノンクロンでも「やろうと思えば、明日からできる」というやり取りがありましたが、こうした小さな取り組みから確実に始めていきたいところです。
今回は以上のような、ドリーム・プランがシェアされました。すべてにアイディアに共通するのは、人々の接点を能動的に生み出そうとしている点であり、これは各参加者がオンライン・トークやメンバー間でのノンクロンで身につけたコレクティヴ的な感覚と、自分の興味関心とを融合させた結果といえるでしょう。この段階では実現可能性は考慮せずに、思いついたことはすべてメンバー間でシェアすることが重要です。内容が粗削りであろうとも、どんなに突飛なものであろうとも、まったく問題はありません。今回の発表をきっかけにして、ほかの参加者が自分の持っている知識やスキル、あるいは人脈などを活かして、より具体的なプランに昇華させることも可能です。次回以降は、今後の実践活動を意識しつつ、しかし井戸端会議であることも忘れずに、対話を続けていきたいと思います。



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