2021年5月30日(日)
文:青栁隆之介(福岡県文化振興課学芸員)
第3回のコレクティヴちっごは、前回に引き続きZoomでのオンライン開催となりました。
今回のディスカッションは、まずオンラインを介した人々の交流についてのノンクロンから始まりました。ディスカッション前に聴講したクワンサン・クンストクリング(Kwangsan Kunstkring)によるオンライン・トークでは、これからの時代におけるコレクティヴの在り方を考えるうえでの一つのケースとして、新型コロナウイルス感染予防のために実施されるオンライン授業が取り上げられました。特にコロナ禍以降に就学した児童については、教室という一つの空間でクラスメートと会い、授業を受けるという経験がないことが紹介されました。参加者の一人からは、隣の席であるとか、通学路が同じであるといった、現実の世界で考えられるような交流の起点がないヴァーチャルの世界で、一体どのように友人関係を築いているのか不思議だという感想がありました。その一方で、私たちがまだ知らない彼らなりの友人の感覚というものがあるのだろうとも想像されていました。筆者の子ども時代を振り返ってみても、友人と休み時間に校庭で遊んだり、下校中に寄り道をしたり、あるいはお互いの家を訪ねたりといった、授業の外で仲間と過ごした記憶は時間を経た今でも、よく覚えています。そして、その体験のそこかしこに、学校の先生が教えてくれないような小さな学びや発見が散りばめられていたようにも思います。対面での交流が制限された今、仲間との体験共有は、どのような方法で可能となるのでしょうか。また、現代の子どもたちが育んでいるであろう画面越しの友情から、私たち大人が学べるものはあるのでしょうか。今後一層加速していくと思われるオンラインでの交流は、対面交流の単なる代用品ではなく、私たちに新たな「集まる感覚」をもたらすものだという発想が必要なのかもしれません。
続いて、筑後地域の公共施設について話題が移っていきます。ある参加者は、以前人に連れられて九州芸文館に足を運び、そこで写真展を鑑賞した際のことを話してくれました。作品展示だけではなく、絵画や書道などの教室が開かれているという話も聞いて、美術館とも異なる九州芸文館について、その機能や役割をはっきりと捉えることができなかったといいます。また、筑後地域に長年住んでいるその方の実感として、筑後市は自然災害に見舞われる頻度が低い印象があるといいます。2017年に開館した筑後市北部交流センター「チクロス」についても、防災拠点としての機能を持つものの、平時の使われ方が大切になると考えているようです。それを受けて学生の参加者からは、シングルマザーやシングルファザー、学校に通うことが難しい子どもなどが集まれる公共の場所が必要だという意見もありました。
ディスカッションはその後、羽犬塚駅を中心にMEIJIKAN[1]や、筑後市郷土資料館といった文化施設が点在している地域の環境が話題に上ったほか、空き家について古民家再生に取り組んでいる自治体やNPO法人の活動にも目が向けられました。近いうちにメンバー同士で筑後の町を歩いてみたいという声もあり、地域に存在する「場所」を調査することも、私たちの活動における一つの可能性になりそうですね。
このように、筑後地域には人々の交流の拠点になりそうな建物は存在するものの、その活用方法には向上の余地があると感じる参加者は多いようです。
その後、次回のオンライン・トークに登壇するカタクルジャ(Katakerja)が図書館の機能をベースにした活動を行っているという話から派生して、「絵本は誰のためのものか」という話題にも展開しました。ある参加者は、これまで絵本について深く考えたことはなかったけれど、大人と子どもが共に楽しんで過ごすことができるツールの一つではないかと、今この瞬間に感じたと話します。この問いを投げかけた参加者の方も、そういった幼少期の経験が、現在の自分の根幹を支えていて、難しい書籍と同じように絵本の中にも深い学びがあると感じているそうです。絵本を介して誰かとつながり学び合うというのは、冒頭での学校の友人との交流を通した学びとも重なる部分があります。
さて、初回からここまでのディスカッションを通じて、各参加者が今後の実践活動に向けて、どれくらいイメージできるようになったかを尋ねてみました。ある方は町づくりなどに興味があって参加していると話し、そのなかで従来の学校や美術館、病院のシステムは、専門家から利用者に向けてサービスが一方向で提供されるという点で共通していることを指摘します。そして、近年の精神医療の現場では、対話を中心にした治療を行うオープンダイアローグが注目を集めていることを紹介してくれました。オープンダイアローグでは、患者や医師、家族、友人、看護師、事務員など様々な関係者が集まって対話を積み重ねていき、全員の対等な関係性のもとに治療が行われているそうです。その方は、学校や美術においても、内部のシステムだけで完結するものではないと感じており、様々な立場の人が関係性を築いていくなかで、何かが生まれていく場所を自分たちで立ち上げていきたいと語ってくれました。人々が集まり領域横断的に協働するというのは、まさにインドネシアのコレクティヴ活動の核心部であり、私たちの活動でも大切にしていきたい要素です。
このあたりで、第3回のディスカッションは終了しました。今回は様々な方面に話題に展開しながらも、「人々が交流するための場所」という通底するテーマのもと話し合いが行われたように思います。地域には高度な設備を備えた公共施設があり、他方ヴァーチャルという新たな世界も急速に広がりつつあります。しかし、プラットフォームを整備するだけでは十分とはいえず、そこでどのような人々の交流が生まれているのかが重要であることが理解できる回となりました。
ディスカッションの雰囲気も、オンライン通話が不慣れだという参加者もいるなか、回を追うごとにすべての方が会話に参加できるようになってきました。人が集まるということに対しても、メンバー全体での共通意識のようなものが少しずつ見え始めています。プロジェクトもまだまだ前半戦です。今後も自由にノンクロンを重ねながら、実践に向けた具体的なイメージを固めていければと思います。
[1] MEJIKAN…筑後市山ノ井にある宿泊施設。1階に書店とカフェ、2階にギャラリー、3~4階に客室を備えている。4階の客室は、九州在住のアーティスト4名が筑後をテーマに制作したもの。



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- オンライン開催(Zoomを使用)