2021年5月8日(土)
文:羽鳥悠樹(福岡県文化振興課学芸員)
ついに、コレクティヴちっごの活動が始まりました!
このプロジェクトは、「コレクティヴと考える―パンデミック以降の地域文化活動/アートの可能性」の一部として、オンライン・トーク企画と連携しながら行っていく、次世代型井戸端会議企画です。
オンライン・トーク初回冒頭の企画趣旨説明で述べたように、本企画の全体的な枠組みは、このコロナ禍において「人が集まる」ということについて、オンラインとオフラインの両面から考えていこうというものです。
オンライン・トーク企画では、集まることを活動の核としているインドネシアの8組のコレクティヴに、このパンデミックが彼らの活動にもたらした影響や、それにどのように立ち向かっているのかということを共有してもらいます。
コレクティヴちっごでは、予め募集したメンバーが、オンライン・トークの日に九州芸文館に集まり、一緒にトークを聴講します。トーク終了後、メンバーはその場でディスカッションを続け、このコロナ禍で、実際に人が集まることの意義や、この九州芸文館が位置する筑後地域で我々に今一体何ができるのか、ということについて話し合っていきます。オンラインという新しい「場」に注目が集まる一方で、実際に「人が集まる」ということにどのような力があるのかということを、このプロジェクトを通して考えていきたいと思います。
募集段階では、一体何人の人が集まってくれるのだろうかと不安でしたが、福岡県内各地からたくさん応募がありました!そして、初回は九州芸文館に4名、オンラインで4名集まり、無事にスタートを切ることができました(緊急事態宣言発出直前だったため、希望者にはオンラインで参加して頂きました)。
初回は自己紹介や、参加のきっかけなどから始まり、ガイダンスの感想や、メンバーの筑後地域への思いを共有して頂くなど、様々なトピックで話が展開していきました。メンバーは、なんと10代から70代まで、綺麗に各世代が揃い、学生、会社経営、地域振興に携わるお仕事、アートスペース運営など、本当に様々なバックグラウンドを持つ方が集まってくださいました。
こんなにも多様な人が、明確な目標を敢えて定めず、集まってノンクロン(おしゃべり)をしていく場は、そうそうあるものではないなと、企画者ながら驚いています。しかし、だからこそ「人が集まる」ということの不思議なおもしろさが見えてくるのではないかと、これからの活動がとても楽しみになりました。
参加のきっかけもみなさん様々です。この筑後地域の魅力を次世代にどう引き継いでいくのかという課題について考える場を求めている方。美術館などの活動が、今の世の中で不要不急のものと言われていることに危機感を感じ、地域に住む者として何かできることはないかと立ち上がって頂いた方。アジアに多く友人がおり、今の世の中でそうした人と人のつながりの大切さをもう一度考えようと参加していただいた方。本当に、みなさんがそれぞれの問題意識を持ってこのプロジェクトに参加してくださいました。
コレクティヴちっごは、インドネシアのコレクティヴが大切にしている、それぞれの地域との関わりというところを重視し、集まったメンバーで、この筑後地域で何が必要とされ、我々に何ができるかということを考えていこうとしているわけですが、実は今回集まって頂いたメンバーで、筑後地域出身者は3名。他5名は、後から筑後に移り住んできたり、筑後地域外からの参加と、面白い構成になっています。そんなところから、話は筑後地域のイメージと内実へ展開していきました。
筑後地域外から参加を決意して頂いた方は、筑後地域について、アート、そして工芸がさかんであるというイメージを抱いており、そういったものが盛んに行われる、どのような風土が筑後には醸成されているのかという疑問を挙げられました。
それに対し、筑後地域に長く住む参加者の一人は、久留米絣や八女の和紙などの工芸は確かに盛んで、現代美術などとは違った「小さなアート」かもしれないけど、そういったことを次世代に伝えていく大切さを感じているとのこと。その一方で、廣田先生の、コレクティヴがインドネシアで盛んであることは、インドネシアの文化的背景と関連しているのではないかというお話しから、日本の農耕社会、そして農業が盛んな筑後という背景を思い、生きていくために何かを作るという風土が根付いているために、たくさんの生産者がいるのではと、大変興味深い考察をされました。
すると、筑後地域に長く暮らすもう一人の参加者の方も、ものづくりもそうだが、やはり農業や自然といったところに魅力がある。これは、田舎にずっといると当たり前のことかもしれないけど、一度外に出て見ると、こうした環境が実は貴重なものであるということが分かる、と同意します。
しかし、海外から友人などが訪ねて来た時に思うこととして、これだけ貴重な環境がありながら、それを上手に伝えていけていないという課題も挙げられました。
ものづくりの伝統や風土が、実は農業や農耕生活と結びついているのでは、という考えはとてもおもしろく、重要なことのように思われます。そして、筑後で長く生活をされてきた2人が、今自分たちの地域を振り返ってみて、改めてこの地域の水、自然、農業に魅力を感じている、という事実は、見過ごしてはならないことでしょう。「ものづくり」や「農業」は、今後のコレクティヴちっごの活動のキーワードになりそうです。
話は、外から筑後にやってきた人のきっかけへと展開していきます。元々は国際交流や、英語を教えるお仕事をされていたという参加者の方は、曽祖父が画家だったこともあり、アートに携わりたいと思い立ち、縁があって筑後地域に来ることになったそう。
筑後は高島野十郎や青木繁、坂本繁二郎など、画家が多いが、その一方で、実は現代美術作家も多くいることに気がついた、とのこと。曽祖父は、福島県の喜多方で喜多方美術倶楽部の会員として活動していたそうですが、同倶楽部は、主に喜多方の商工業を営む裕福な市民が会員の中心となり成立していたとのこと。同様に、コレクティヴも、廣田先生の話を聞いていると、単体で存在することはできず、やはり地域の人の応援や、そことのつながりを通して、存在が成立しているように感じたと述べてくれました。これはまさにその通りだと思います。
筑後地域でも、そのように住民と作家が関係を持つ素地は十分にあると感じているそうで、この点も、今後もっと議論を深めていきたいポイントですね。
その後、今回このプロジェクトに参加してくれたきっかけの一つとして挙げられていた、美術が不要不急と言われ、こうした場や活動が制限されていることに、話は戻っていきました。
このような状況下で、この地域でずっと生活されてきた参加者の方は、九州芸文館がこの地域にあることの意味をもう一度考え、その上でこのハコからも飛び出して、官民共同で何かことを興していく必要性を強調されました。
まだ筑後に住み始めて1ヶ月くらいしか経っていない方も、今日のこのノンクロンで、八女の和紙などについては初めて知ったとのことで、やはり地域の外の人への発信は大きな課題としてあるようです。
この辺りでちょうど良い時間になり、第1回は終了となりました。
初回だったにも拘らず、話が途切れることもなく、参加者同士で次々と展開していき、とてもおもしろい時間でした。今後はまず、前半の4回で、このようにメンバーでノンクロンを重ね、色々な角度からこの筑後地域のことについて考えていきたいと思います。


- 開催場所
- 九州芸文館