2021年5月16日(日)
文:青栁隆之介(福岡県文化振興課学芸員)
第2回のコレクティヴちっごは、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発出され、Zoomを使用したオンラインでの開催となりました。オンラインとオフラインの両面から「人が集まる」ということについて考えるという、企画本来の目的が達成できないもどかしさを感じるとともに、新型コロナウイルスが私たちの生活に与えた影響の大きさを、あらためて思い知ることにもなりました。
今回からは、いよいよインドネシアのコレクティヴによるオンライン・トークが始まりました。トーク聴講後のメンバーの反応は、とても共感を覚えたという方から、やや内容が難しく感じたという方まで様々でしたが、そうした感想の共有がいろいろな話題へと展開していき、いつの間にか学びの枝葉が広がっていくというのも、明確な目的を定めないノンクロンだからこそ可能なことではないでしょうか。
また、新たな試みとして、Google Jamboardを使用してメンバー同士の感想やアイディアの共有を図るようにしました。これは、オンライン上にある共用のホワイトボードのようなもので、メンバーは好きな場所にテキストや画像を配置したり、フリーハンドで線を引いたりすることができます。実はこの方法は、参加者の一人が提案してくれたもので、スタッフである私たちも機能をすべて使いこなせているわけではありませんが、それぞれの知識やスキルをシェアするという双方向性が早くも芽生えているように感じられます。今回のオンライン・トークに登壇した、クンチ・スタディー・フォーラム&コレクティヴ(Kunci Study Forum & Collective、以下、クンチ)の活動のように、今後はメンバー全員で共に学びながら活用していけたらと思います。
メンバーは早速オンライン・トークを聞きながら、メモや感想を書きこんでくれたようで、後半のディスカッションはその内容を掘り下げていく形で始まりました。
まず、クンチが大学を飛び出した活動をしていることもあり、参加者の一人は現役の学生がどのようにトークを聞いていたのかという点に興味を持ったそうです。それに対し、学生の参加者は、クンチの活動がアートだけではなく執筆や書籍の編集にも及んでいることが、特に印象に残ったといいます。このように幅広い分野でコレクティヴの活動を行うことは、人々のつながりの輪を広げることにも寄与しており、今後は執筆などを通じて大学同士が結びつく活動ができればおもしろいのではないかと続けます。
それを受け、長年筑後に暮らす参加者の方は、筑後川流域に広がる自然豊かな環境の中に、短期大学が存在する意味はとても大きいと話します。筑後市にある九州大谷短期大学は仏教や幼児教育、福祉、演劇、情報司書など様々な学科があり、西日本一帯から学生が集まり、また中央から招聘された講師が教鞭をとっているなど、地域にとって貴重な場所となっているそうです。
クンチの活動が脱大学的だったのに対し、こちらでは大学を中心にした会話が展開されているのは興味深いことです。大学をとりまく環境一つとっても、両国の状況は大きく異なっており、インドネシアの活動事例をそのまま日本にコピーすればいいというわけではないことを示しています。こうした何気のないやり取りからも、私たちにとっては当たり前の環境が一体どういったものであるか、少しずつ見えてきます。
他のメンバーとじっくり会話するのは今回が初めてという方もいて、コレクティヴちっごへの参加を決めた当初から、九州芸文館には地域の交流の場として、多くの可能性が秘められていると感じていたそうです。施設の活用方法をメンバーと共に考え、さらに筑後地域を盛り上げていきたいと抱負を語っていただきました。
ディスカッションの中ではたびたび、九州芸文館が地域と協働していくための意見交換が行われ、私たち学芸員が真摯に受け止めなくてはならないご意見も多数いただきました。皆さんの生の声を、これからの施設運営に反映させられるように、努めてまいります。
今回のトークでは、インドネシア現代美術の誕生のきっかけとされる、1970年代から始まった新美術運動(Gerakan Seni Rupa Baru)が紹介されました。彼らの活動は、新美術運動メンバーであるシティ・アディヤティ(Siti Adiyati)の記述の引用によっても説明され、その手法が農民のようであったという表現に共感した方もいたようです(シティの記述についての詳細は、オンライン・トーク第2回のレポートをご参照ください)。ある参加者の方は、トーク内で紹介された活動の多くが、他者任せではなく自分たちの手で行われており、それらは自らが生き延びるための行動であることに注目します。
他方、伝統工芸の普及振興にも携わっている方は、福岡県知事指定の民芸品34品目のうち22品目が筑後地域のものであることについて触れていました。こうした、ものづくり文化が育まれた背景には、やはり筑後地域ならではの豊かな風土があると感じ、コレクティヴちっごは昔ながらの伝統を取り込んだ活動になるとよいのではないかと話します。
前回のディスカッションの中でも、農業という単語が繰り返し使われ、さらには生きていくために何かを作るという筑後のものづくりについての考察がなされたこともあり、こうした視点は筑後地域での活動を考えていくうえでの大切な要素になりそうです。
さて、ここまでは中央と地方という構図で語られることも多かった筑後地域ですが、美術家でもある参加者の一人は、地方と地方の結び付きにも目を向ける必要性を強調します。筑後の中にも地域それぞれの特色があり、その多様性をすべて一括りにして語ることはできないといいます。確かに、一軸の基準のみでは、その文化を正しく理解することはできませんし、こうした地方ごとの差異からも筑後地域についての考えを深めていきたいですね。
クンチのオンライン・トークでは、教育が贅沢品になりつつあるというインドネシアの現状が紹介されました。それに関連して、日本ではアートが贅沢品のような扱いを受けてしまうが、本来は違うのではないかという意見もありました。少ない予算の中でも、得意分野の異なる人々が集まり、協働することで、おもしろい活動ができると感じているそうです。
その方は、かつて帰国子女に英語を教えていた際に、中には自分よりも英語が得意な生徒もいて、彼らに何を教えるべきかと考えた末に出した答えが、共に学ぶということだったそうです。これはまさに、クンチが実践する先生も生徒もいない学びそのものですね。教室の中で先生の話を一方的に聞くのではなく、ピクニックのように野外へ出て、学び合う場所を作ってみたいという提案もしていただきました。
この辺りで第2回のディスカッションは終了しました。「ものづくり」や「農業」というキーワードを前回から引き継ぎつつ、クンチのオンライン・トークでの主要なテーマでもあった「学び」について、各々が考えを共有することができました。メンバーからは続々と活動のアイディアも出始めています。今後も実現可能か否かに関わらず自由な発想で、ノンクロンを続けていきたいと思います。



- 開催場所
- オンライン開催(Zoomを使用)